10月25日

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 ウラノメトリアの作業とともに、2001年に書いた「Suite for Bass flute,Euphonium and Pano」という室内楽の改訂版を並行して進めている。もともと、音量差の大きな楽器によるアンサンブルに無理があったので、とても好きなアイディア(インスピレーション)で書かれているにも関わらず、人々の理解を得ることが難しい曲となっていた。そこで、これを「P.A.assisted Bas flute」とすることを思いついた。つまり、ステージ上の奏者の脇にギターアンプのようなものを用意して、ユーフォニウムと対等な音量を得ようという試みである。そうなると、今までユーフォがバスフルートにメロディーをゆずって我慢しなければならなかった部分を対位法的な掛け合いにすることも可能になり、曲がより豊かになる可能性が出てきた。
 実際、対等な音量であることを前提に考え直すと、音域がほとんど同じであるために絡みが面白く、ワクワクしてくる。

 16時追記

 ウラノメトリア第3巻に並行半音階の練習曲(連弾)があり、それを少し前に「カステル神父のリボン」と名づけた。半音階の事を英語でクロマティック・スケールと言うが、クロムとはもともと色のことを指す。絵を描く人ならば「クローム・イエロー」や「クローム・グリーン」などの色名を思い出されることだろう。金属元素のクロムも酸化物が発色することが名前の由来ではなかったかと思う(怪しいのでご自分で確認を)。
 さて、カステル神父なる人物は、聴覚障害者でも音楽を楽しめるようにと、オルガンの各鍵盤をそれぞれ色の異なるリボンに対応させた楽器を考案した。よく分からない行動ではあるが、次のような解釈が成り立つのではないか。
 カステル神父は共感覚の持ち主で、音と色が対応しており、ある色を見ると決まった音が頭の中で鳴る。共感覚の人は、他人も自分とおなじだと思っているから、聴覚に障害があっても色を見せれば誰もが音を思い浮かべると信じているわけで、とうとう色リボン付のオルガンを作ってしまったということだ。アレクサンドル・スクリャービン共感覚の持ち主で、やはり色・光オルガンを製作した。ただし、共感覚の困ったところは人によって対応する音と色に違いがあることだ。共感覚は音と色だけではなく、文字と色、色と匂いなど組み合わせはいろいろのようだ。ピッチ(音の高さ)に頼らない絶対音感もあるというから複雑な話だ。
 というわけで「カステル神父のリボン」は、クロマティック・スケールの練習曲にぴったりな曲名だと一人悦に入っている。
 ところで、スクリャービンだけではなくメシアン共感覚の持ち主なのではないかと思うのだが、その理由は「なぜその音が出てきたのか分からない」ところが少なからずあるからだ。どんな音を選ぼうが作曲者の自由だが、色-音・共感覚者は色を優先して選んでしまうことがあるのではないか。つまり、音の運動力学から外れて音を選んでしまうということである。無共感覚音楽学者が、そこからなんらかのルールを導き出そうとすると混乱と錯誤の理論が生まれそうで心配になる。

23時追記

 息子の風太郎が、ノーベル賞を受賞した下村脩博士よりも子息である務(つとむ)氏のほうが有名だという話をした。映画にもなっているほどの人だそうだ。本業は物理学者らしいが、コンピュータ・ネットワーキングの天才でワルで有名なハッカーを追いつめて、ついには逮捕ということになったらしい。だから下村務氏を知るコンピュータ関係者の目には「彼の父親がノーベル賞を受賞した」と映るらしい。