6月1日(月)

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 今日は楽しみにしていたベートーヴェンの「ピアノソナタ第6番ヘ長調 作品10-2」のレッスン。
 「第5番ハ短調 作品10-1」は「悲愴ソナタ」を予告するものとして重要視されているが、第6番は軽く見られがちであることが解せない。この曲は非常に充実したインスピレーションに満ちており、書物やウィキペディアからの情報を無批判に受けたりせず、自らアナリーゼしてその真価を見極めるべきだろう。
 アウフタクトから始まるシンコペーションを感じさせる第1主題の部分動機が、それ以下の部分を統括していく。モーツァルトゆずりとも思えるポリリズムハイドンからの影響と思われるターンを含む断片が現れながらも、曲は凝縮されたスタイルで進んでいく。緩徐楽章を欠いて第2楽章には3拍子のアレグレット楽章が来るが、この楽章は「第14番 嬰ハ短調」いわゆる月光ソナタの第2楽章の発想のもとになったのではないかと考えている。第3楽章をヘ短調で弾くと「第23番 ヘ短調“熱情”」ソナタの終楽章がくっきりと浮かび上がるのを聴くことができるはずだ。
 作曲を重ねてくると、同じような体験をするのでよく分かる。こういう“転機”のような曲があるのだ。それは本当にインスピレーションに恵まれた時に書いた曲で、樹で言えば幹のようなものだ。枝が四方八方に伸びて葉を茂らせる。

 今日は、もう一つの話題。千賀子先生の紹介で新しいピアノの先生がお見えになり、作曲工房の輪がまた少し広がった。こんなに嬉しいことはない。