7月22日(水)

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 完成したウラノメトリア2αの版下を持って、市内の印刷会社へ出向く。ざっと計算しただけでも、この6年間(なんと6年間もブラッシュアップしつづけていたのだ)に使った費用は、プリンタのインクカートリッジだけで優に20万円を超えている(というのは控えめな言い方で、ウラノメトリアのためだけではないが、毎月ほぼ1万円弱のインクを消費している)。元が取れないことくらいは覚悟の上だが、印刷製本費用だけは回収しないと第3巻が作れない。印刷会社の社長さんに第1巻を見本として見てもらうと、紙の厚さを計るゲージとルーペを持ってきてさっと見ただけで「菊倍、オフセット印刷に背表紙のある糸綴じ製本ですね。表紙はアートなんとかにマットPP仕様ですか・・」と言った。要するに、これは高くつくと言うことだ。
 結局、マットPPだけは譲れないものの、背表紙のないA4中綴じ製本で単価を下げることにした。中綴じ製本のよいところは開きやすいことで、楽譜には向いているのではないかということだった。
 印刷代がないので、初版は100部。初版1刷が、将来希少本として価値が出るくらいの内容でなければ駄目だ。中綴じとするために、版下のレイアウト全ページ変更しなければならない。完全データ入稿のつらいところだ。今週中にやり終え、来週はじめには印刷発注するつもり。
 さて、今日の日食はくもりで期待できず、テレビの中継に見入った。民放はレポーターが素人で話にならず、NHKを見た。渡辺潤一さんが日食クルーズ船に乗り込んで解説していた。そう言えば、竜ヶ崎のS先生(初代UXのオーナー)が国立天文台で執務している場所が彼と近いと話していた。S先生の観測地は奄美大島のはずだ。悪石島と屋久島は雨。奄美大島も雲が多い。国立天文台の観測拠点である硫黄島は晴れ。小笠原付近の日食クルーズ船は、船長の巧みな操船で晴れの領域にいる。NHKのテレビカメラマンも準備万端整えて出かけたのだろうが、カメラのフィルターを切り替えるタイミングが悪いばかりか、ピントが狂っていても、日頃見慣れないからなのかしばらく気づかない。こういうことは経験を積むしかないのだろう。
 夜になって、カミさんと日食番組を見た。いろいろと質問されるが説明が大変だ。「月と太陽はどっちが大きいの?」という簡単だけれど難しい質問。 これは実際の直径ではなく、視直径、つまり見かけの大きさについての質問に違いない。月の方が大きい時には皆既日食、太陽のほうが大きい時には金環食になる。これには、またまたやっかいな説明が必要だ。地球が近日点付近にある1月には太陽は大きく、7月は小さい。だから夏の日食のほうが皆既食になりやすいが、今度は月が近地点に近いか遠地点に近いかによっても変わってくる。たまたま今日は月の距離が最近で、それも今年のレコードである。地球が遠日点付近に位置していて、さらに月がとびきりの近地点に位置しているとう、こんな日に日食となったのが皆既時間が長い理由のひとつだ。さらに「コロナは見えるの?」という簡潔で意味深な質問。これは、おそらく皆既日食の時に肉眼でも確認できるのかという意味だろう。コロナは太陽の大気のようなもので、明るさは光球面(ふつう、人々が太陽と呼んでいる領域)の100万分の1ほど。だから、人工的に日食を作る太陽コロナグラフという特殊な観測装置を使っても、一部分しか観ることができない(少なくともかつてはそうだった)。SOHO衛星のように宇宙で太陽観測をおこなっている探査機ではかなり詳細な観測も可能なはずだが、コロナを詳細に観察できるチャンスは皆既日食の時しかない。太陽や月は人が思い込んでいるほど大きくないから細かいところまでは見えないだろうが、その光芒は肉眼で見える(私は見たことがないが)。冥王星(今では準惑星だが)を除けば、太陽系においては母惑星に対して最大の衛星が月である。その月がたまたま太陽と視直径がほぼ同じになるような軌道を公転しているということが奇跡的だ。

「ウラノメトリアが売れたら日食を見に行こう」
「どこへ?」
イースター島
「いつ?」
「来年」
「・・・行けるわけないじゃない」

 以後、会話が途切れてしまった。