9月10日(木)

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 書き上げたのにアップロードしていない音楽コラムが、実は数多くある。修正しようと思っているうちに賞味期限が切れてしまったり、こちらが成長して中身が貧弱に思えるようになってしまった場合が大半だが、中には単にアップロードを忘れていただけというものもある。そんな中に「聴衆は常に過去に飼いならされている」ことをテーマにしたものがあった。
 ベートーヴェンのような革新的な作曲家が現れ「英雄交響曲」のような作品を発表した時、当時の聴衆や音楽評論家は評価に戸惑った。彼らは過去の概念しか持たなかったからだが、実は、過去の概念からさえ学んではいなかった。だから新しい音楽(誰もやってこなかったことが全て新しいわけではない。念のため)は、ことごとく抵抗を受けてきた。抵抗なく受け入れられたとしたら、それは “形だけは新しいが中身は旧態依然とした” 音楽だったことだろう。
 今までに経験していない事態に対処できることこそが、優れていることの証なのだが、そのためには本当のことが解る必要がある。
 高速道路原則無料化も、日本人にとっては初めての事態だ。ここではその是非ではなく、有識者と言われる人々やマスコミを含めた日本人全体の混乱ぶりを検証する。
 無料化云々の前に、本来あるべき姿を考えてみると、それは全ての輸送がベストチョイスされることである。遠くへ行くなら航空機、または鉄道。中距離までならクルマ。帰省時のように荷物が多ければ宅配便と鉄道の併用。旅行や帰省も人数が多くなるとクルマのほうが安くなるが、鉄道も家族(あるいはグループ)割引制度などを導入して、人数が多くなると得になるようにすれば旅客人数も確保できるのではないか。今後、電気自動車が増加して、おまけに家庭用太陽光発電が普及すれにつれてクルマを使ってもCO2の増加はむしろ抑えられる方向に向かうことだろう。輸送のベストチョイスとは全ての交通機関が効率良く、しかも経済効果の面からも安全の面からも最良となるようにすることだ。クルマに関して言うならば、高速道路の走行距離あたりの事故率は一般道よりもかなり低い(正確な数字はお調べいただきたい)。時間あたりにすると、さらにその3倍も低いことになる。だから一般道を走るクルマが高速道路に分散されることによって交通事故全体は減ることが期待される。また、救急搬送車両の搬送時間も短縮されることが期待される。こちらの問題は、むしろ救急患者の受け入れ先の確保だろう。
 では、ここから検証に入る。
 まず、日本人があまりに長く高速道路両金を払い続けてきたために、高速道路はそういうものだと思っているフシがある。最初の高速道路建設時から建設費が償還されたら無料になると決められていたことを忘れてはならない。それが、全ての高速道路を一体と考えるプール制という制度(法)に変わってから不採算路線も堂々と作られるようになった。そして、地方にはガラガラの高速道路も存在するのに、無料の道路を求める人々のために一般道路を整備し続けなければならない状況が生まれた。クルマが通らなくとも料金所には24時間、人員を配置しなければならない。
 報道各社の記事も、肝心の点(民主党の主張がどれだけ本来あるべき姿に近づけるか)よりも、誰が何を言ったかに集中している。高速道路会社のトップが「事実上の国有化は時代に逆光している」と発言したと伝えているが、そもそも民営化は、高速道路から永久に利益を上げ続けなければならない仕組みなので、公共性の点から考えて妙な仕組みであって、民営化こそが時代に逆光していたのではないか。
 JRのトップは「高速道路無料化によってCO2が増加する」と発言したことが伝えられているが、その根拠は述べられていない。何となく感覚で発言したのだとしたら、責任ある立場の人間の発言としては問題がある。
 多く報道されているように感じたのが「土日祝日1000円でさえ渋滞したのだから、無料化したら高速道路は渋滞で機能しなくなる」というものだった。これは日時を限定した料金割引だったからこそ渋滞したのであって、毎日無料ならば交通量は分散することだろう。
 そして財源問題である。「税金でまかなうのは問題がある」という主旨の発言が無料化反対意見として報道されているが、一般道路はすべて税でまかなわれている。一般道路と高速道路は別物と考えることによって喚起される発言のように思われるが、一般財源化することは、道路利権をなくすためにも必要ではないか。不必要な道路(地方の不採算路線と言う意味ではない)を建設したり、それを維持する財源を税でまかなうことこそが問題ありとすべきだろう。
 このように書いてくると、私が民主党の高速道路原則無料化案にもろ手を挙げて賛成しているように思われるかも知れないが、決してそうというわけではない。
 本当のことがなされるかどうかに関心は集中している。道路の建設予算9兆円のうちの2兆円を負債の返済に充てるとしている点には賛成である。財源はこれで充分。なぜなら、高速道路無料化によって得られる最大のメリットは、地方が近くなることだからだ。中国や東南アジアよりも近くなるに違いない。再び日本の地方に工場が戻ってくる可能性さえある。そうなれば、日本全体の税収は増え、高速道路の負債などいつの間にか返済できてしまうことだろう。
 世界の経済が安定するためには、世界中の国が自国民の消費規模に見合った経済活動をすることだ。輸出に頼るということは、どこかの国の雇用を奪うことと同義である。もちろん、お互いが対等な輸出入を行うことは良いことだ。
 高速道路の無料化政策が良い方向に向かうかどうかは、民主党が実態を正しく把握し、道路利権をむさぼろうとする者を排除し、輸送のあるべき姿に近づけられるかどうかにかかっている。