10月24日(土)牛牛(ニュウニュウ)日本デビューリサイタル

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 今日はサントリーホールで、中国の12歳のピアニスト牛牛(ニュウニュウ)の日本デビューリサイタルを聴いてきた。
 「徹子の部屋」ほかの番組で彼の演奏を聴いたかぎりでは、よく指の動く神童的なピアニストかと思っていたが、生演奏を聴いてすっかり考え違いいていたことを思い知らされた。彼は本物のピアニストになるだろう。すでになっているが、まだ伸びしろを残しているので、これからもっと本物になることだろう。早速、来年2月7日のジャパンツアーのチケットを押さえてもらった。ショパンエチュード全27曲。今から楽しみだ。

 さて、今日のコンサートはモーツァルトのK.545のソナタからスタートした。スタインウェイが、まるで森田ピアノのように柔らかく艶っぽく響く。アルベルティバスはピアニッシモ・エ・デリカート。たちまちテレビでの俗な印象がぬぐい去られた。目の前で子どもが弾いているとは思えない“うた”がある。
 続いて、同じくモーツァルトのファンタジーK.396。ケッヘル番号を思い違いしていて、間違っていると思ったが帰宅して調べたら396だった。これも見事。古典派時代のファンタジーは「幻想的な曲」というよりは「気ままな曲」というイメージが強いファンタジーだが、彼は見事に幻想的に弾いた。
 3曲目はロンドニ長調K.485。ソナチネアルバム第1巻第23番として収められている曲だ。丁寧で精密だけれど、小気味よいテンポでぐんぐんと前に進んでいく。真珠のようなタッチでピアノからキラキラと音がこぼれ出る。
 1曲終わるごとに正面席とP席(ステージ向こう側)に向かって丁寧に礼をする。しかし、一度もステージ袖にさがることなく、演奏は続いていく。次の曲はベートーヴェンピアノソナタ第23番 へ短調 作品57 “熱情”。第1楽章は堂々とした演奏。モーツァルトが嘘のようにステージが白熱する。第2楽章で、彼は初めて年齢を感じさせる演奏をした。ベートーヴェンは一筋縄ではいかない。どんなにきっちりと演奏してもそそり立つ壁のように第2楽章は牛牛の行く手を阻むかのようだった。しかし、来年には、もう乗り越えてしまうかも知れない。そんな可能性も感じさせる演奏だった。第3楽章のテンポは始まったとたんに超絶技巧を予感させた。しかし、さすがの彼にも多少無理があった。この楽章も未来への期待膨らむ宿題となった。
 ここで休憩。
 休憩中に調律の微調整が行われた。
 休憩後最初のプログラムは「きらきら星変奏曲」K.265。調律師の腕が発揮された1曲。休憩後の牛牛の音色はさらに良くなった。可愛らしい曲なのに、実に堂々とした演奏。第12変奏が始まった時には、すでに大曲の趣となっていた。
 続いてショパンエチュードから4曲。考え抜かれた選曲。作品25-7、作品10-12 “革命”、作品25-9 “蝶々”。作品25-11 “木枯らし”。特筆すべきは “木枯らし” だろう。極めて速いテンポであったにもかかわらず精密な演奏と込められた“うた”によって名演奏だった。もはや、彼が12歳であるなどということは考える必要がなかった。彼を一流のピアニストとして聴いていればよいのだ。
 続いてドビュッシーのプレリュードが2曲。第1巻第10番 “沈める寺” と、第2巻第12番 “花火” 。花火では、音色を自由に操る腕前を披露した。色彩感溢れる演奏にはなかなか出会えるものではない。
 プログラムの最後はリストのハンガリー狂詩曲第2番 嬰ハ短調。大変な集中力と緊張感で、のっけから聴衆を呑み込んでしまう。花火以上に音色を変化させて、聴衆は牛牛マジックにはまってしまう。演奏が終わると、場内は異様な興奮に包まれて嵐のような拍手。

 最初のアンコールはショパンノクターン嬰ハ短調(遺作)。
 哀愁を帯びた大人びた演奏にさらに熱い拍手が続く。
 2曲目はチャイコフスキーの「白鳥の湖」から「4羽の白鳥の踊り(ワイルド編曲版)」。技巧的な編曲で牛牛の超絶技巧ぶりが発揮された。
 3曲目はヴォロドス編曲によるモーツァルトの「トルコ行進曲」。こちらは正真正銘の超絶技巧。以下のURLで牛牛11歳の時の演奏動画を見ることができる。

http://www.youtube.com/watch?v=-nnVy4hOaZg

 アンコールを3曲弾いても拍手は鳴り止まず4曲目が始まる。たぶん瀏陽河(唐璧光/王建中編曲)と思われる中国の旋律による技巧的な曲。
 それでも拍手は止まらず、5曲目はリムスキー=コルサコフの「熊蜂の飛行」。下のURLも11歳のときの演奏。

http://www.youtube.com/watch?v=sFVdl84nuww

 ついにアンコールは6曲目に突入し「さくら」。
 聴衆はスタンディング・オベーション。牛牛は4方向に向かって何度も礼をし、ようやくデビューリサイタルの幕は降りた。
 
 今日出会った作曲工房関係者は8人。注目度の高いコンサートだった。