11月24日(火)内田光子ピアノリサイタル Aプログラム

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 今日は待ちに待った内田光子さんの3年ぶりの来日公演。サントリーホールに作曲工房一行が集結。
 開演前にアーク森ビルの一角で軽食。ピアノ技術者の中山さんから、先週、内田光子さんから直接お話をうかがう機会があったと聞いてびっくり。内田さんのピアノの調律を担当するドイツ人調律師の講習会に参加した時、彼が「今日はサプライズがあります」といって内田光子さんを会場に招き、彼女の話を聞くことができたということだった。内田さんは驚くほどピアノに詳しく、モダンピアノよりも昔のピアノを絶賛していたという。そして「私は新しいピアノでも昔のピアノのように弾くことができる」というようなことを話されていたということだった。とりあえず中山さんを2,3回ぶたなくては気が済まないくらい羨ましい話だ。
 今日の座席はステージ下手、内田光子さんの真うしろ。内田さんが弾く姿を細かく観察できる位置。もちろん、小型双眼鏡も持っていった。
 プログラムの最初はモーツァルトの「ロンド イ短調 K.511」。繊細この上ない演奏。1回だけデッドノートがあったけれども、それが分かってしまうくらい真剣に聴いてしまった。
 拍手も許さず、間、髪を入れずにベルクのソナタが始まる。ガンガン弾くのではなく、声部分けが分かるように丁寧に音楽が流れる。楽譜を見ると分かるのだが、時おり声部の交差が起こるため、声部の分離が欠かせない複雑な曲となっている。ベルク自身が迷って書いたように感じられる部分もあるのだが、それも内田流に整理されていて、今まででもっとも分かりやすい演奏だった。
 第1部の最後はベートーヴェンピアノソナタ第28番 イ長調 作品101」。後期ソナタの端緒となる作品。ベートーヴェンの後期ソナタは全て名曲だけれど、28番は、31番と並んで哲学的な名曲。循環形式を思わせる主題の回想があったり、フーガが用いられたりして構成にもすぐれている。
 休憩時間に、2階席のおちゃめさんに交渉して席を換えてもらう。おちゃめさんの席は前もって双眼鏡で確認しておいた。今度はステージ正面からの眺め。
 休憩が終わると美智子皇后が入場。会場は割れんばかりの拍手で迎える。彼女も内田光子さんの音楽の理解者なのだろう。
 第2部はシューマンの幻想曲 作品17。シューマンは得意ではないが、幻想曲は聴き込んでいる。
 まるでドビュッシーが始まったかのような繊細なアルペジオに乗って雄大な主題が歌われる。坂本先生から「卒試は、この曲でした」と聞いて「すごー!」。帰りの地下鉄で、第2楽章で内田さんが弾き直したことを聴き逃さなかった坂本先生の言葉を聞いて、すぐに思い当たることがあった。鳴りきらなかった音をわずかに遅れて弾いた場所で、そこがテンポルバートしたかのようにも聴こえた。内田さんは滅多なことでは不要なテンポルバートをしないので、気になったところだ。帰宅後すぐに、今日聴いたアンコール以外の全曲の楽譜を読み直したのだが、シューマンは特によく読み込んでしまった。そして、この曲はシューマンが実は前衛的であったことを示していると感じた。
 演奏後、鳴り止まない拍手に内田さんは何回もステージに呼び戻される。
 内田さんはアンコールに応えないのが常だが、美智子妃臨席の際は別。最初はシューベルトの「即興曲 変ト長調」。天国的に美しい演奏。これで終わりかと思ったら、なんともう1曲のアンコール。
 モーツァルトピアノソナタK.330第2楽章。内田マジックで、あのシンプルな緩徐楽章が名曲に変身してしまう。
 27日にはBプログラムが聴けると思うと楽しみでならない。こんなに興奮してしまって、今日は眠れるだろうか。