3月5日(金)

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 午前中に「わらびクラシックフェスタ」のリハーサルのために京浜東北線蕨駅近くのコンクレレホールに出向く。「ファゴットとピアノのためのアリア(1976/2010)」は、ピアノの高野眞由美さんもファゴットの松崎義一郎さんも大変よく研究してくださっていて当日は安心。そのまま居残って、フルートの甲藤(かっとう)さちさんを加えたピアノトリオも聴かせていただく。甲藤さんは東京交響楽団の首席フルート奏者の方で、初めて演奏を聴かせて頂いたのだが名演だった。3月7日の本番が楽しみになった。
 夜には、大学受験を終えて発表待ちのS一郎君がレッスンに帰ってきた。留守にしていた3ヶ月分のウラノメトリア新曲を一緒に弾く。
 それから、クリスティアン・バッハのトリルは、演奏習慣として上から始めるというようなことがありますか? という質問を受けた。基本的にトリルは記譜された音から始まり、シャープやフラットなどの指定がない限り、音階上の2度上の音を往復する。2度上から始める時には短前打音で示すことが多い。彼の持ってきたC.バッハのクインテットのスコアを丹念に調べると、2度上に短前打音が表記されている箇所が見つかった。これで、無表記(トリル記号のみ)のトリルの始まりは記譜音からと判断しても間違いはなさそうだと伝えた。
 まだ楽理上の国際的な取り決めがなかった時代の装飾音符の扱いは、思いのほか厄介である。記号で書かれた時点で演奏者の裁量が大きいと考えてもよいが、当時の演奏習慣とかけ離れていては奇妙に響くだろうし、チェンバロとピアノでは装飾法そのものが変わる場合もある。結局、最後は「装飾音センス」を磨くしかないということになる。現代の作曲家は新しい演奏指示記号を創出してまで多用するのに、装飾音符を嫌って全て楽譜として書くことが多い。私はプラルトリラーなどの基本的な(共通語としての)装飾記号を使うことに抵抗はない。なぜなら、新しい楽譜からそれらの記号が消えてしまったらバロック音楽の演奏の敷き居がますます高くなってしまうだろうからだ。
 このような考え方も、ウラノメトリアのようなメソードを書いているからだろうか。