今日のレッスン

 早朝、末娘(高3)の“たろ”の荷物を持ち帰るために、隣市の美術研究所へクルマを走らせた。
「上手になるのって気がついた時なんだよね」
 説明の下手な娘が言う。言いたいことはよく分かる。何ごとにも他人まかせではなくたどりつかなければならない。最近は修行僧のように集中して絵に向かっている。途中で私の携帯にメール着信。娘に読ませるが、何を言っているのかサッパリ分からない。しばらく聞いて、ようやく新曲の修正についての内容であることが分かった。
「そのアルファベットは全部イタリア語読みするんだ」
「へえカッコいいね」
 美術研究所に到着して、娘が荷物を持ってくるのを待っている間にも美大を目指す若者たちがゾロゾロとやってくる。ひとめ見ただけで美術系だと分かる雰囲気が特徴的。我が家は全員美術系で私一人が音楽。若者たちを見ているうちに、音楽系よりも芸術家っぽい感じでカッコよく思えてきた。
 若い時には、誰もできないことをやってのけようという野望があるものだ。
 
 帰宅すると間もなくナオコーラ先生が到着。
 一緒にウラノメトリア第2巻を端から順に弾いて行く。
「いつ出来上がるんですか?」
 当然ながら誰もが同じことをたずねる。
「がんばって秋には・・・」
 ちょっと無理かなと思いながら答えた。

 午後は大学2年の“さゆりっち”。今日は“さゆりっちママ”も一緒。ママはレッスンとは関係ないけれども、いつもレッスンをとても面白がってくださる。今日のお題は「フーガの技法」の「反行と拡大のカノン」。まず「音楽の捧げ物」でカノンの復習をして、カノンにすることによって生まれる和声的制約を確認。それからいよいよ「反行と拡大のカノン」の検証に入る。
 なぜ、このような複雑な制約の中で、カノンを形成することができたのかは言葉ではうまく説明できない。“天才”の条件のひとつに「途中の演算ぬきに正解にたどりつく」というものがあるが「逆行カノン」も「反行と拡大のカノン」にしても、次の一音が分かってしまう瞬間を挙げるしかない。

 夜は、朝届いた新曲修正のアドバイスメールの内容を実際に弾いて確かめる。アドバイスどおりのほうがエチュードとしては分かりやすいかも知れない。結論は今夜これからゆっくりと考えることに。