丸木スマ

 昨日は、お受験期間に入る“ナナちゃん”の最後のレッスン。ナナちゃんは知らないことは「知らない」、分からないことは「分からない」、その逆もはっきりと認識できるお嬢さん。だから、理解するしないは別として、いろいろな説明がしやすい。初めてレッスンに来た頃からレッスン室をざっと眺めて「せんせい、カレンダーめくり忘れてる」とか、「〜の場所がこの前と違ってる」などと言って私を驚かせたものだ。ピアノも他の子どもたちとは違う不思議な魅力の演奏だった。目指すは、私も教育実習に行ったことのある中学校。とてもいい学校だ。難関校だけれど頑張れ。
 午後は世田谷のオーケストラ・ワークショップで「おもちゃの交響曲」を演奏したアキヒロ君と“ちびまゆ”。アキヒロ君は全長調スケールに取り組んでいる。スケールを演奏するということは、鍵盤を覚えることではない。第一にスケールは「滑らかでなければならない」。高速スケールにおいてブルドーザが地ならしをするような演奏を望む作曲家はいないか、あるいはいたとしても“分かっていない”作曲家である。たとえフォルテで演奏する場所であったとしても、スケール上でとなりあう2音はデュレーション音価に対して発音されている時間)や音量差が目立ってはならない。英雄ポロネーズには4オクターブを超える力強い高速平行スケール(b moll旋律的短音階)が出てくるが、これとてどれだけ滑らかに弾けるかが勝負である。スケールは練習するだけでは上手にならない。バイエルと同じで、まず「目指すべき到達点」が見えなければ音だけ出してしまうことだろう。そして、それを実現するための、鍵盤と人の身体の構造の関わりについて理解しなければならない。昨日は平行スケールを弾くアキヒロ君の手首と肘の動きを追ったが、かなりよく分かってきたという印象。これなら速度を上げても大丈夫。身体の使い方については、人から習うことは難しく、レッスンでのヒントを元に自ら体得しなければならない。自転車に乗れるようになるのと全く同じ。乗れた時に初めて、自転車が「重力に対してバランスを取りながら2輪で走る」という物理現象を理解するのだ。“ちびまゆ”はブルクミュラーの「バラード」。このお嬢さんも“ちび”ではなくなってきた。幼稚園児だった頃にはヒョイと持ち上げてピアノの椅子に座らせたこともあったけれど、もう無理。お兄ちゃんとは異なる能力があって、曲の理解が早い。というよりも気づいていないだけで最初から分かっているようなところがある。もう少し大きくなってきたら、最初から自分で曲を組み上げてくることだろう。大人たちが羨ましがったり悔しがったりするタイプ。
 夕方以降は、レッスンが別日程に変更になったので、娘の“たろ”と居候の“げっちゃん”、カミさんを4人で画材を入手するために外出。げっちゃんは烏口を探していたが、値段をみてびっくり。携帯でお母さんと相談。横で聞いていたら「お兄ちゃんかおじいちゃんが持ってるよね?」。後で彼女のおじいちゃんが画家であることを知る。烏口なら私も持っていたが、嘴が真鍮製の古いタイプだったので(真鍮マニアだから当然)手入れを怠って錆びさせてしまった。カミさんも持っていたが、ロットリングに持ち替えてから使わなくなってしまって所在が分からないという。そのロットリングも10年くらい前に全てPCソフト上での作業に置き換わってしまったので、使わなくなってしまった。
 画材に散財してしまったので、はなまるうどんでちょっとだけ空腹を満たす。100円マックよりもコストパフォーマンスが高い。

 さて、今、我が家で話題なのは画家の丸木位里さんの母であった「丸木スマ」さん。1956年に81歳でなくなる7年前に急に絵筆をとって画家になられた方。1951年から連続3年院展に入選して1953年に院友となったという強烈な経歴の持ち主。
 基礎的なデッサンなどを学んでいないので、一般的にいう“巧い”とか“巧みな”画家ではないが、現代美術が目指す方向のひとつが彼女の先にあるのではないか、というような絵。「母猫」などという絵は、デュビュッフェも脱帽するかも知れない。

 今日(8/31)は、ウラノメトリア第2巻α版の「つながらなかった線」が見事につながった。
 ウラノメトリア生み出そうとする最も強い動機は「ショパンエチュード」へ接続するはずだった未完の「ショパン・メソード」の遺志を継いで「真のピアノ・メソード」を完成させることである。
 細かい編集方針を述べるなら以下のとおりとなるだろう。

・ピアニスティックであること(人体とピアノ鍵盤との機能の擦り合わせにおける、音楽における最も高い妥協点)。
ショパンが述べた“厳密な意味における音楽”の実現(音楽における第4の要素)。その方法は、第4の要素を習得したレスナーとの連弾が基本。
・スケールとアルペジオの重視。
・音階はH Durから。譜読みはC Durから。
・21世紀のメソードとして、20世紀の諸作品へ対応する。その方法は「派生音の多用(臨時記号が多い曲)」「混合拍子、および拍子の途中変更(変拍子)」「長調短調以外の練習曲」「長調短調の領域の拡大」。
・ロールンク、シュッテルンクなどのピアノテクニックを正しく解説して、ピアノは練習だけで上達するのではないことを示す。

 今日は、H DurやDes Durの練習に際して、全てを臨時記号表記、および鍵盤の図示によって調号に関する余計な説明がすべて省略できることに気づいて、それに沿って作業のやり直しを行なった。

 午後には門下に2人いる“さゆり”さんのうち、大学生の“さゆり”さんのレッスン。砂地に水がしみ込むようにレッスン内容を吸収してくれるばかりか「レッスンに来ると、ますます色々な事を知りたくなる」と言うお嬢さん。作曲工房には知的好奇心旺盛な人たちが集まってくれていることに感謝。

 レッスン後も、ウラノメトリア2αの線と線をつなぐ作業。実は、かなり面倒。今日は、ウラノメトリアだけで6時間以上の楽譜修正作業。よくぞ続いたものだと我ながら感心。いつもは違う内容を組み合わせて飽きないように作業している。