昨日を引きずる

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 作曲する時には100m全力疾走時のような力を使う。マラソンのように遠いゴールを目指すのではなく、ジャンプして高みを目指すのにも似ている。楽譜の浄書のような単純作業ならば、もう少し力を落として長時間できる。昨日の作業は単なる作曲とも楽譜の浄書とも異なるものだった。途中にレッスンが入ったので、連続して行なったわけではないが、かなり消耗したらしい。朝起きて、その重さに自分の身体ではないような印象だった。歳をとったものだ。
 朝食後に家事で身体を動かして、ようやく少し復帰。午前中は昨日の作業のチェック。
 昼ちょうど頃に“たろ”と“げっちゃん”帰宅。帰ってすぐに、“たろ”が前年度の志望美大合格者のインタビュー記事を音読して2人で、侃々諤々の議論。

「勉強して何かを覚えたって頭よくなるわけじゃないんだよ。バカじゃ絵は描けないよ」
「自分で気づかなくちゃだめなんだよ」
「ほら、この先輩なんてすごいよ」
クロッキー1日20枚だからね」
「え〜、この人、浪人時代がつまらなかったって。絵が好きならうまくなれる時期なんだから楽しいに決まってるよね〜」
「先生から“もう無駄なことをしている時期じゃない。やること全てに意味があるようでなければならない”っていうアドバイスを受けたのがターニングポイントだったって。すごいね、分かっちゃったんだね」

 分かっているのかいないのか、とにかく2人とも鼻息だけは荒い。夏休み中ずっと彼女たちの絵を見てきたけれど、たしかに格段の向上を見せている。自分の力が使えるようになってきたということだろう。
 彼女たちにとって受験は重要だけれど問題はそのずっと先にある。将来、モノにならなければ潰しの効かない世界だからだ。