9月13日

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 もし「13日の金曜日」説を信じるならば、今日はナザレのイエスの命日らしい(A.D.30)。なるほど、毎年9月13日が金曜日であるはずがない。13日の金曜日が巡ってくるたびに縁起が悪いと言っていても仕方がないということだ。

 今日はレッスンが少ないので午前中はクローゼットからプリンタ用紙や製本用品を救出、ウラノメトリア第2巻私家版制作の準備を進める。手作りの私家版は、おそらく限定30部。オーストリア製の厚手の中性紙を使ってレーザープリンタで美しく仕上げる。落款(らっかん)を作って押したくなるほどだ。レッスンにお見えになっている方限定でお渡しすることになるだろう。

 午後3時過ぎに事務用品や楽譜の調達のために外出。
 遠距離レッスンの方からの質問にメールで回答したところ、準拠している版が異なることが分かり、その版を入手することが第1目的。5000円を超えるので、レーザープリンタのトナーを純正品からリサイクル品に変えて、その差額を楽譜代に回すことに。作曲工房は自転車操業なのである。
 オフィス用品の店に向かう途中、東北線をオーバーパスする跨線橋を登っていると、ポニーテールをベースボールキャップの後ろの隙間から出して自転車を軽々と(涼しげに)登る妙齢の女性が目に留まる。黒いTシャツとパンツが似合っている。こちらはクルマだから、もちろん追い抜いたけれど、電動アシストでもない自転車を本当に気持ちよく漕いでいて何ともカッコいいのだ。スーパーのレジにだってカッコいいお姉さんがいる。一種の才能だと思うのだけれど、クルマに乗っても、ピアノを弾いても、ラーメンを食べても、横断歩道の前で信号待ちをしてもカッコいいということはあり得るのだ。カッコわるいおじさんとしては羨ましいかぎり。
 トナーの注文を済ませて、別の市の楽譜店に向かう。これでウラノメトリア第2巻α番の限定私家版の制作準備は整った。
 タイトルだってカッコよくしたい。目に映るものを片っ端から言葉にしてみる。ところがこれがなかなか難しい。たとえば雲を数十とおりの言い方で表現してみたかったが10例にも達しないうちに言葉が止まった。「分からん」と言ってみたが、カッコわるいことこの上ない。目にした樹の名前はほんの少ししか言えない。なかには「たぶん柘榴(さくろ)」などという新品種も現れた。
 ガソリンが安くなっていることにも気づいた。しかし、7月に入れたばかり(?)だ。次の給油は早くても10月だろう。場合によっては年末ということもあり得る。
 突然「ハルジョオンヒメジョオン」について調べていなかったことを思い出した。ユーミンの曲のタイトルにいちゃもんをつけている人がいたのだ。早速調べてみると別の植物。「春 紫苑」で「ハル ジオン」、「姫 女苑」で「ヒメ ジョオン」。少し知っていれば見ただけでわかるそうだが、素人が区別する方法は茎を折るとハルジオンには空洞があり、ヒメジョオンにはないということだった。

 帰宅して間もなくナルミちゃん(中1)がやってきた。今日最後のレッスン。もう目をつぶっても弾けるはずの簡単なA Durの平行スケールの下降で運指を間違えた。慣れすぎかも知れない。来週からスケールに緊張感のある課題を加えたほうがいいかも知れない。そういえば、昨日も最後のレッスンのS君(小6)がE Durのスケールの左手開始音の打鍵位置が7mmくらい浅かった。結局E Durのスケールを弾くことの論理的な解釈(ピアニスティックの意味)を説明した。最終的には「関ヶ原の合戦」の「歴史的解釈」ではなく「論理的解釈」について話した。前提は、情報が限られる古い時代の戦場で状況を的確に把握できる指揮官がどれだけいたか、ということに尽きる。その多くが霧中にあって、判断材料を持たないという予想が立つ。一部の崖っぷちの武将は別として、あまり本気ではない武将達は、その持ち駒の多くが農民兵であることもあって人的被害を最小限度に抑えたい。ゆえに家康の調略作戦が効を奏す素地があった・・・と、まあ、そんなことはどうでもよい。誰がどのように動いたかということではなく、どのように動いたと考えられるかという問題。なぜ、それが平行スケールと関係あるのかというのはレッスンで。ピアニスティックという問題の本質は練習ではほとんど理解できないはず。
 レッスン後、外は真っ暗になってしまったのでナルミちゃんと最寄り駅まで歩く。月と木星が輝いている。この夏は星が見えない夜が多かったので、急に俳人、鷹羽狩行の著書にあった「銀漢の 立ち上りたる 裏戸かな」という句を思い出す。銀漢とは天の川のこと。

 夜、きくえちゃん(高3)から嬉しいメールが届く。詳細はいずれ。今年は作曲工房に大学受験生が4人。難関校志望も少なくないが、みんなとても優秀だから大丈夫だろう。勉強しただけでは人は頭がよくなるわけではない。第二次ポエニ戦争(B.C.219-201)のカルタゴ軍のハンニバルとローマ軍のスキピオの采配について調べさせ、その後に指揮官二人の発想について質問すれば、高校生ならばある程度の能力を測ることができるだろう。ピアノの練習をさせておけばピアノがうまくなるのなら世界中はピアニストであふれかえっていることだろう。