100選集の面白さ

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 最初にレッスンにやってきた“ひかり“ちゃん(小6)が、昨日の校外学習で富士重工アセンブル工場を見学してきた話をしてくれた。彼女の話を聞くと、クルマが組み立てられる工程以外は知らないようだった。それで、クルマを作るためには鉄鋼などの基幹産業はもちろん、夥しい関連産業が必要であることを実例を交えて話すと、賢い彼女は、自分が昨日見てきたことを改めて理解したようだった。自動車を作れる国がそれほど多くはないということも、トヨタニッサンというような自動車会社は、タイヤはもちろん、自動車用窓ガラス、ブレーキ、スパークプラグ、車載ラジオ、ヘッドランプ、塗装用塗料など、どれも作ってはいない。それは、全て他の産業が育っているから入手できるものばかりなのだ。ひかりちゃんは、まるで世界を理解したような気分になったらしく、揚々と帰っていった。
 そういえば、次男坊の海次郎がクルマの免許をとったので、今日は駐車場にクルマがない。

 午前中のレッスンを終えてから少しの間、カミさんと図書館から借りてきた「昭和の洋画100選」「昭和の日本画100選」を眺める。(朝日新聞社1991年刊、税込み12233円)
 17年という年月がどのくらいの意味を持つ長さあるのか定めにくいのではあるが、今なら選び方も異なるのではないかと思わせる絵があることが興味深かった。いちいち名は挙げないけれども、一時の流行と感じる絵も少なからずあったということだ。今回素晴らしさが分かったのは熊谷守一。「ヤキバノカエリ」は、まるでルオーの「郊外のキリスト」を見た時のような凄みを感じた。

 午後は“ちびまゆ”ちゃん(小3)に、時計や温度計の「針」について話した。正確に指すべきところを指すための工夫。針ひとつで先人たちの知恵に感服できる幸せというものもあるのだ。
 もちろんピアノも弾いた。ちびまゆはシュッテルンクの習得中だ。シュッテルンクを理解するのは、初めて補助輪なしで自転車に乗れた時と似ている。ほぼ純粋に物理現象と言ってもよい技術だ。できているかどうかは誰にでも分かる。遅れてお兄ちゃんの“あきひろ”君がやってきた。ちびまゆとママはひと足先に帰ったので、レッスン終了後2人で駅まで歩いた。駅前の再開発のためか、秀吉ラーメンがなくなっていた。あきひろ君が「家康ラーメンにしておけばよかったのに」と言ったので「ペリー・ラーメンには負けるかも知れない」などと訳の分からない切り返しをしてしまった。

 夜遅く娘の“たろ”が帰ってくると、カミさんと3人でクリムトの画集を囲んでクリムト談義になった。3人ともクリムトには一家言あるので、やんややんやと楽しかった。クリムトは多彩な画風を持っているのに、一般に紹介される時には“紋切り型”に「くちづけ」や「ユーディット」になってしまうので彼の全体像はほとんど知られていないと言ってよい。もっとも、それは全ての芸術家にあてはまることかも知れない。全てを知るには人生は短すぎる。音楽関係者には、ぜひ「ピアノを弾くシューベルト」を探し当てて見ていただきたいものだ。今日のヒットは、姪である「ヘレーネ・クリムト」の肖像。