7月19日(日)

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 冗談ではないと思ってはいたけれど、本当に奥多摩のせせらぎの里美術館まで行ってきた。クルマの運転は大嫌いなのに往復140km走ってしまった。30代半ば頃には10万kmを4年かからずに走っていたことを考えるとウソのような話だ。とはいうものの、当時は140kmなんて隣町の感覚だったような気がする。
 初めてETCを使って出かけた「せせらぎの里美術館」は、以前訪れた「川合玉堂美術館」の近く。古民家を改装して美術館にしている。建物そのものは実に良い感じだ。ただし、冷房は入っているものの空調という考え方はないに等しく、仮に私が画家であったとしたら、この美術館にだけは展示されたくないと思うような環境だった。美術品は貴重な文化財であって、保存には充分な配慮が必要であるのは言うまでもなく、奥多摩町はもう少し対策を考えたほうがよいだろう。
 さて、日曜美術館で驚きをもって見た“犬塚 勉”という画家は、実物と対面して直感した感想を一言でいうならば“未完の画家”である。初めて高島野十郎の実物と出会った時に感じたことは、その精神性と作品としての完成度の高さだった。それに対して、犬塚勉作品では、あと一歩だったのにという印象だった。彼も、あと10年、20年と画業を続ければさらに高い境地へと登り詰めたに違いない。大変な画力の持ち主であり、その力は、残されている作品をもってしても、やたらな画家たちを寄せつけないだろう。しかし、まだ彼自身が完成への途上であった。たとえば緑。緑はもともと非常に難しく、あの東山魁夷でさえ“緑”に到達したとはいえないのではないか。実際の植物の緑でさえ、園芸品種では緑が通俗的なことがある(園芸品種では、花の色が崇高とはいえないことが少なからずある)。犬塚勉は、しばしばワイエスとともに語られるけれども、両者の緑を比べるとその違いが分かりやすいだろう。
 早世したことが惜しまれてならない。
 夜、長男の風太郎に薦められてメキシコの「Corona Extra」というビールを飲んだ。ライム果汁を入れてから飲む、なんともトロピカルなビール。