8月20日(土)

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 今日は早起きして、ちょっとした作業を済ませ、モリアキ翁の朝食を用意して一緒に食べ、それを終えてから定期便の更新を始め・・たところで急にマルグリット・ロンの演奏が気になってしまった。
 延々3時間、ラヴェルのピアノ協奏曲をミケランジェリユンディ・リと聴き比べたりしながら聴き込んでしまった。
 マルグリット・ロンがドビュッシーともラヴェルとも(もちろん、当時の有名作曲家たちとも)親交があったということは、そのまま当時のパリを表している。当時のパリは音楽家も画家も彫刻家も詩人も舞踊家も振り付け師も建築家も小説家も、とにかく世界の一流どころが集まっていた。文化的に沸騰していたに違いない。
 高度に情報化された現代では、パリのような沸騰都市にいなくとも、私たちは時代を超えて世界とつながり、その水準を知ることができる。これもまた凄い。この環境を生かさない手はない。

 今日はNHKのワンダーワンダーという番組で「アドベンチャー・レース」というものを知った。レースによってレギュレーションは異なるが、今日紹介されていたのはパタゴニアで行なわれた「パタゴニア・エクスペディション・レース2011」というものだった。男性選手3人、女性選手1人の4人チームで9日間かけて道なき原野を600km、一切の人工動力なしで不眠不休で走破するという過酷なレース。
 今までダブルトライアスロンがもっとも過酷なレースだと思っていたが、世界レベルのアドベンチャーレースは、さらに過酷だった。これなどいくら新聞記事で結果を読んでもレースの実態を把握することは難しいだろう。映像で観ても、おそらく一部分しか知ることができないとは思うが、人間の強さに圧倒された。レース前半の4日間の睡眠はわずか4時間あまり。後半は制限時間に追われて眠る余裕はなかったのではないだろうか。バイク(自転車)、ランニング、カヤック、トレッキングでゴールを目指す。
 演奏家向けのレパートリーを作曲するのも、なかなか強烈な作業だ。自分でもよく分からないような複雑なスコアを、日常とは掛け離れた集中力でこなしていく。興が乗れば、まさに不眠不休で長時間作業を継続することもある。ハッと気づいて立ち上がろうとすると、関節が固まってしまってすぐには動けないこともある。あっという間に10万クリックくらいしてしまうので、指が腱鞘炎を起こすこともある。曲を書き上げると、虚脱感があって、しばらく呆けてしまってしばらく曲が書けなくなったりもする。作曲は才能で行なうのではなく、どのくらい本気になれるかでできるかどうかが決まるといって良いだろう。 
 しかし、アドベンチャー・レースには負けた。あのレースは少しでも判断を謝れば命を失うだろう。

 そう言えば、高校時代までは数学には全く興味がなかったのだが、20世紀に入ってから数学と音楽との親和性がにわかに注目され、数学者や物理学者が世界の作曲コンクールを席巻するということもたびたびあったりして、急に数学書を読みあさったりした。相変わらず面倒な計算は苦手だけれど、数学の美しさと面白さを理解する程度にはなれた。昨夜は、ちょうど30年前の1981年に買った「数のはなし」というタイトルのわりには本格的な数学書を再読。もちろん途中まで。数学もアドベンチャー・レースや作曲同様、本気の世界だ。
 音楽ではなじみのフィボナッチ数列は「数の貴族」という項目に登場する。そういえば、この項目を読みたくて買ったのだった。

 
小出裕章 非公式まとめ

8月18日 健康や命より国が優先したもの